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帰国後の治療について

 

■帰国後の治療と法令

私どもは海外渡航案内のみならず帰国後の病院の手配並び入院手続きまでが支援活動の範囲です。
詳しくは渡航経験から直接話を聞かれると参考になると思います。
移植後の治療は極めて重要であることは申すまでもありません。
渡航相談に見えられる患者の方々から耳にする話に、「通院先の主治医から帰国後に診て貰える病院はどこもありませんよ・・」とか「帰国後は自費診療になるので何百万円もの治療費が毎年必要になりますよ」など不法行為の予告を平然と患者に伝える医師がいます。
厚生労働省は繰り返し不法行為医を行う医師または医療機関に対し「医師としての品位を損なう行為」(医師法第7条2項)適用を考慮し、医師免許の取り消しまたは医業停止等の行政処分を前提に法令順守を厳格に求めるべきと考えます。
帰国後の治療に付いて実情と法令に関して論じたいと思います。
1 今日まで帰国後の患者が診療を受けられずに路頭に迷う人は私どもの活動に於いて誰一人いません。
2 海外移植患者が帰国後に法的責任を問われたケースは誰一人いません。
3 正当な理由が無い診療拒否は医師法違反であり(医師免許の取り消しまたは停止になりえる)
~医師法19条・応召義務とは~
「医師は診察治療の求があつた場合、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%9C%E5%8F%AC%E7%BE%A9%E5%8B%99
※正当な理由とは・・・文末に記述します。
■渡航患者の人権
移植後は適時検査をし、免疫抑制剤を服用しなければなりません。
もし帰国患者が適切な継続治療を受けられない場合、移植した臓器に拒絶反応が生じ数週間から数か月以内に死亡へ至ります。
万が一その様な事態が生じれば重大な人権問題として国内のみならず世界中に報じられることでしょう。
■司法関係者の意見
町野朔教授(刑法学者)は、外国での臓器売買を想定して、「たとえ違法行為を行った者でも診療を拒否する正当な理由に当たらない」と指摘している。また、鈴木利廣弁護士(日本医事法学会・理事)も「臓器売買の可能性が高いからと、診療拒否するのは正当な理由に当たらず、応召義務違反になる可能性が高い」と述べています。
さらに、粟屋教授(岡山大学・生命倫理学)はたとえ犯罪者でも、困っている患者に医療を施すのが医師の職業倫理の根幹。診療拒否は患者の命にかかわる。臓器売買の倫理的、社会的妥当性と医師の倫理的な治療義務とは別問題。目の前に患者がいるのに診ない理由はない」と述べている。 ~いずれも東京新聞抜粋・2007年9月9日~
■厚生労働省の見解
私どもから厚生労働省に問い合わせしたところ以下の回答をされました。
「日本国民として医療を受ける権利があると病院(医師)へ伝えてください」また「海外移植は拒否理由にはなりません」と常識的ではあるが明確に回答をされています。
さらに、「日本の医師は臓器売買の疑いがある」との身勝手な憶測から診療拒否されます・・
回答「違法行為の有無と医師の応召義務に関係はありません。例え、強盗犯や殺人犯であっても医療を受ける権利があります」との見解です。
■診療拒否した医師に私どもから直接問い合わせると・・
主な拒否理由は下記となります。
1 違法行為(臓器売買)の疑いがあるので応じられない
2 WHO(イスタンブール宣言)が渡航移植の禁止を勧告しているので応じられない
3 死刑囚のドナーを採用した可能性があるから
4 中国は外国人の移植を禁止しているから違法である
■上記に対し私どもでは以下の回答をしています。
1 ドナーに付いては当事国の法令に従い医療機関が手配しており私どもは臓器の出処に一切関与していない。また手術費用の項目にもドナーに関する費用は無く、臓器代金として支払った経緯も事実もない。まして患者がドナーと接触することは一切ございません。
私どもの支援活動は入退院の手続き、翻訳、通訳、身の回りの世話、帰国後の病院の手配が主たる責務となります。
私どもが感知しえない事情に於いて、仮に違法行為があったとしても医師の応召義務が免責されるものではない。
2 確かにWHOの勧告及びイスタンブール宣言は渡航移植(移植ツーリズム)を禁じるべきと広報しています。
但し、上記広報には法的効力(ないし拘束力)有していません。したがって日本国法令である医師法19条を順守すべきと考えます。
~イスタンブール宣言~主旨抜粋・2008年
移植のための渡航(Travel for transplantation)とは、臓器そのもの、ドナー、レシピエント、または移植医療の専門家が、臓器移植の目的のために国境を越えて移動することをいう。移植のため の渡航に、臓器取引や移植商業主義の要素が含まれたり、あるいは、外国からの患者への臓器移植に用いられる資源(臓器、専門家、移植施設)のために自国民の移植医療の機会が減少したりする場合は、移植ツーリズム(transplant tourism)となる。
引用:日本移植学会http://www.asas.or.jp/jst/pdf/istanblu_summit200806.pdf
日本国内であれば子供の心臓移植は300万円以下(注1)で受けられます。1億円を超える費用は「移植商業主義」の要素が拭えません。
また、心臓移植を希望する日本人の子供が米国へ渡航した場合、米国人の子供の移植機会を奪うことになります。米国内でも臓器は不足しており待機中の多くの子供が命を落とされている現実があります。
その一方、日本のマスメディアは募金活動など支援する報道がなされています。
成人が自費で海外へ行くことは悪であり、募金を原資に小さな子供が渡航するのは善とする風潮は情緒的な感情論ではないでしょか。
受け入れ側の米国も、また送り出す側の日本の医療機関並び支援団体もWHOの勧告やイスタンブール宣言をまったく意に介していません。法的効力を有してないからです。
注1:中央社会保険医療協議会(平成26年改訂)が制定した心臓移植費用は255万6400円となります。
心臓移植術・移植用心採取術・組織適応検査に対する診療報酬額です。(術後の治療費は含まれません)
海外移植の場合、術後の治療費に加えて関係者への謝礼金・滞在費・渡航費用が加算されます。
3 死刑囚から摘出した臓器を用いた移植手術を禁じた法律は日本にも中国にもございません。したがって違法ではなく合法です。
 加えて申しますと我が国に渡航移植を制限する法令はございません。
※ 中国は27年1月1日から死刑囚ドナーを全面禁止するとの報道がなされています。
4 中国が法規制したのは「観光目的で入国した外国人への移植を禁止する(2007年)」であり渡航移植自体を禁止したものではない。
私どもは正当な手続きにて滞在許可を取得しています。また各種臓器移植のライセンスを取得した国立病院へ案内しています。
下記の質問に対し
もし貴医院で診療が不可であれば近隣の病院を紹介して頂けませんか?
病院側回答:勝手に海外に行ったのだからそちらで探してください。
(上記回答は厚生労働省令第八七号通達に反しています)
■診療拒否の正当な理由とは
今日まで正当な理由となりうると言われるケースは以下の5項目となります。
菅野耕毅『医事法学概論(第2版)抜粋』
1 専門医が不在
2 他の患者を診ていて手が離せない
3 診療時間外
4 医療設備の不備
5 ベッドの万床
上記理由が正当理由となり得るかは個々の事例により、個別に判断されます。
■厚生省通達
1.医師の不在または、病気等により事実上診療が不可能な場合
(昭30.8.12 厚生省医務課長回答)
2.天候不良で、事実上往診の不可能な場合
(昭24.9.10 厚生省医務局長通知)
3.診療時間外で、休日夜間診療体制をとる地域で当番医を示して断る場合
(昭49.4.16 厚生省医務局長通知)
4.手術中など患者を収容しても適切な処置が困難な場合
(昭39.10.14 厚生省総務課長通知)
5.疾病又は負傷が自己の専門外である場合(但し、下記の義務が課せられています)
保険医療機関及び保険医療養担当規則 (平成二六年七月三〇日厚生労働省令第八七号通達)
第十六条:保険医は患者の疾病又は負傷が自己の専門外にわたるものであるとき、又はその診療について疑義があるときは、他の保険医療機関へ転医させ、又は他の保険医の対診を求める等診療について適切な措置を講じなければならない。
医師の立証義務(神戸地裁判決平成4.6.30)
診療拒否する場合、医師は具体的にその理由を立証しなければなりません。
~判決文・抜粋~
「医師が診療を拒否して患者に損害を与えた場合には、当該医師に過失があるという一応の推定がなされ、同医師において同診療拒否を正当ならしめる事由の存在、すなわち、この正当事由に該当する具体的事実を主張・立証しないかぎり、同医師は患者の被った損害を賠償すべき責任を負うと解するのが相当である」
※本裁判では診療を受けるという法的利益の侵害による精神的苦痛に対して慰謝料の請求を認めています。
 また神戸地裁は病院側が主張した①専門医不在②時間外③担当医が診察中、いずれも正当理由(立証不十分)に該当しないと退けました。
応召義務違反に対する医師の法的責任(昭和30年8月12日)
厚生省医務局から長野県衛生部長あてに以下の通達がなされています。
~主旨要約~
医師法19条にいう「正当な理由」とは事実上診療が不可能な場合に限られるのであって患者の再三の求めにかかわらず拒否することは19条の義務違反を構成する。
義務違反を反復して行った場合は医師法7条2項の規定により医師免許の取り消し又は停止を命ずる場合もありうる。
※上記通達には「個々の具体的な状況をみなければ判定困難である」と併記されてもいます。
■医療機関との協議
平成26年2月帰国患者に対して診療拒否をした○○総合病院へ私どもが出向いて協議しました。(病院側8名臨席)
結果として病院側の主張に正当性がなく患者受け入れの承諾を得ましたが以下のやり取りがあったことを付記いたします。
病院側:
小さい子供さんが募金を集めて海外に行くことは理解できるが、お金持ちだけが行くのは不公平でありませんか?お金の無い人たちはどうするのですか?
NPO:
ご指摘の通り渡航移植は多大な費用負担が伴います。経済的弱者が海外で治療を受けられないことは事実です。そのお気持ちは共感いたしますが、情緒的または感情的なことにより法や規則が歪められることはあってならないと思います。医療法人である限り法令を順守されるべきではないでしょうか・・。(民法34条・法人は法規定に従う)
※私どもNPOは患者やその家族の代理として医療機関や所轄官庁へ様々な相談や協議しています。
NPOの法的地位は「指定代理人」となります。法的知識を持ち合わせない弱い立場の患者や家族になり代わり支援活動をしています。
私どもは内閣府の認証団体であり公益活動として今後も積極的に患者の保護法益を主張して参りたいと存じます。
これらは「弁護士法第72条」の兼ね合いから無償で対応しています。
■なぜ医師は拒否するのか
正当な理由の無い診療拒否は明らかな不法行為であり、自費診療の強制は「保険医」取り消し処分の対象となります。
法令や規則により患者の人権が保護されているにも関わらず、なぜ医師は不法行為を平然と犯すのでしょうか・・
その背景は「日本移植学会」の意向に他なりません。「患者を海外に行かせまい」との意向です。
例えば腎不全の患者であれば透析をするか、親族から腎臓を貰うか、どちらかの選択を迫ります。
もし患者側から海外移植の相談を持ち掛けると、医師は冒頭の不法行為の予告をされたり、時には「どうなっても知りませんよ・・」患者を威圧する医師もいます。
※渡航移植に対して理解ある医師や医療関係者も年々増えています。ご相談ください。
■諸外国では・・
海外に患者を行かせまいとするのは日本に限ったことではなく諸外国にも似たようなケースがあります。
海外の病院でよく米国人を見かけますが、渡航された経緯を尋ねたところ興味深い話に接しました。
患者:「加入している保険組合から、米国内は治療費が高いので○○国の○○病院で手術してください」と斡旋されたそうです。
保険組合は加入者の掛け金を少しでも減らすために支出する治療費に対する査定も厳しく、同様な治療が海外で数分の一の費用で受けられるなら渡航費や滞在費も含めて給付して貰えるのです。(米国には公的保険制度はございません)
海外への仲介・斡旋は私どものような民間団体ではなく各保険組合が積極的に行っているとのが現状です。
これに対して猛反発したのが患者を取られた側の「全米医師会」です。
「海外で治療してきた患者は一切診ない」と多くの病院、医師が患者に通告したのです。
診療拒否の理由は「どのような手術をしたか不明なので責任が持てない」との主張です。
これらは訴訟となりましたが、当然ながら裁判所は病院側の主張を認めることは無く患者側の全面勝訴となり、医療機関や医師に対し多額の損害賠償(慰謝料)が請求される事態へ至り全米医師会は渡航患者への診療拒否を撤回し収束しています。
一方、米国は海外から来る心臓移植希望の子供患者に対しては多額な治療費(謝礼金)が受け取れるので歓迎しているのが実情です。
患者が来るのは良いが海外に行くのは承知しない・・・日本も同様ですが患者不在の利害関係が見え隠れしていると感じてしまいます。
■あとがき
帰国患者への診療拒否理由に正当性があるか否か・・皆様はどうお考えになりますか・・
ご意見ご質問等がございましたら遠慮なくお問い合わせください。
平成28年1月29日